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ゆずきのBL小説ブログです。                      頼りになる幼馴染攻め×おねしょが治らない受けです。        ちまちま更新します。
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どうしてうちの高校は、宿泊行事が毎年あるのだろう。
真瀬悠耶(ませ ゆうや)は、無意識に小さな溜息をついた。
「悠耶?」
隣を歩く神野崎力(かんのさき りき)に呼ばれて、はっと顔を上げる。
「明日の準備、もう終わった?」
力が優しく問いかける。
「ん……まだ」
「そっか、俺もまだ」
二人は真っ直ぐな道を歩いている。
K駅から国道沿いに十分ほど歩くと、二人の通う高校に着く。
その道の途中である。
力は、俺の考えていること、わかっているんだろうな……。
悠耶は、ちら、と三センチほど背の高い力の顔を見た。
すっと通った鼻筋、きりりとした眉の、彫りの深い顔は、それでもむさ苦しくは見えない。
頼もしげに引き締まった唇と、優しい瞳が、爽やかな好青年の印象を与えるからだろう。
大丈夫、力がいてくれるから……力が、同室だから。
悠耶は、この一週間で何度も繰り返してきた言葉をもう一度、自分に言い聞かせた。
明日から悠耶たち一年生は、一泊二日の宿泊行事である。
新幹線で数時間の移動をして、史跡をめぐって一泊して、伝統工芸を体験して、帰って来る。
それだけのことである。
ごく短期間といえども、学校や授業や我が家といった日常生活から開放されるイベントに、クラスメイトたちはそれなりに盛り上がっている。
だが、悠耶は誰もがこの非日常を喜ぶとは信じていなかった。
例えば、乗り物酔いが酷い人は、新幹線に数時間も乗るのはすごく辛いかも知れない。
そう考えて、宿泊行事が近づくにつれ、クラスを見回して悩んでいそうな友達を探してみたが、見当たりはしなかった。
悠耶はといえば、一泊、たった一泊だから、と自分を慰めている。
この一泊が問題なのである。
悠耶は、おねしょが治っていない。




悠耶と力は、家が隣同士の幼馴染だ。
二人は物心付く前から一緒に遊んだし、小学校も中学校も毎日、一緒に登校した。
同じ高校に進学してからも、その習慣は続いている。
常に、互いが一番の仲良し、という関係なのだった。
だから、というか何というか、力は悠耶が治っていないことを知っている。
悠耶が中学校の宿泊行事を乗り切れたのも、まったく力のお陰だった。
そして今回も、力は悠耶と同室になってくれた。
五人とか十人とかで一部屋だった中学時代に比べれば、今回の宿泊は何の問題もない。
二人で一部屋なのである。
事情を理解してくれている力との部屋割りになれた時点で、悠耶の不安はほとんど拭い去られていた。
とはいえ、自分の家でないところで、しかも力の目の前で、失敗の後処理をするのだと思うと、手放しに旅行を楽しむ気にはとてもなれないのだった。




悠耶がどれだけ気を揉んだところで、太陽は規則正しく昇ってしまう。
宿泊行事に出発する朝が来た。
何で、治らないのだろう。
シャワーを浴びながら、悠耶は慣れ親しみすぎた疑問と向き合っていた。
時刻は六時を過ぎたところ。
いつもより一時間ほど早い起床である。
悠耶のおねしょは文字通りの毎晩なので、夜はおむつを使っている。
そのため、ベッドや衣服を汚してしまうことはほとんどないのだが、シャワーは浴びることにしていた。
温かなお湯で顔や身体を洗うと、少しは気分もさっぱりする。
そうして服を着てしまえば、日中はさほど心配はない。
悠耶は、目が覚めてさえいれば、トイレが近いとか、我慢がきかないということはないのだ。
おねしょを除けば、最後に失敗してしまったのは、それこそ小学校の低学年の頃、記憶に残っているのは片手で数えられるほどだ。
それが、寝てしまうとだめなのだ。
授業中にうとうと、という程度なら大丈夫なのだが、夜の就寝はもちろん、乗り物の中や昼寝など一時的な睡眠でも、熟睡してしまうと三十分を過ぎた辺りから危なくなる。
そういう意味では、今回の新幹線での数時間の移動も、熟睡してしまうと危ないのだが、とにかく寝なければいいのだ。
隣には力もいるし、周りにはクラスメイトもいる。
わいわいやっていれば、眠る暇などないはずであった。
「じゃあ、行って来るね」
準備を整えて、悠耶は玄関から母親に声を掛けた。
「待って、お見送りするね」
「うん」
悠耶は、母親と一緒に玄関を出た。
隣の力は、まだ出てきていなかった。




真瀬悠耶が母親と共に家を出た頃、隣の家に住む神野崎力(かんのさき りき)は、やや焦っていた。
あとは財布を入れて、上着と、時計と……。
必要なものを、急いで用意する。
時刻は七時五分、悠耶との待合せ時刻を五分、過ぎていた。
力は、朝が弱かった。
普段より一時間も早く起きねばならない今日のような日は、力にとっても実は試練であった。
生憎、母親は彼よりさらに寝起きが悪く、父親は海外出張中、妹に起こしてもらう気にはなれず、目覚まし時計と携帯電話のアラームで頑張った結果が現状だった。
もちろん朝食も取らずに、力はリュックをかついで外に出た。
五月の朝は、凛としていた。
薄い日差しの中に、悠耶がこちらを見て立っている。
「ごめん、遅くなって」
力は悠耶に駆け寄って謝った。
「ううん、そんなに待ってないよ」
悠耶が柔らかく微笑む。
大きな二重の瞳が、愛らしく細められる。
綺麗だなぁ。
心の中で、力は呟いた。
悠耶は、背の割には肩も腰も華奢だ。
その身体を思い切り抱きしめたい、と力は密かにずっと考えている。
そのためには、告白して、付き合わないとな……。
「力くん、いつも迷惑かけちゃって申し訳ないけれど、悠耶のことよろしくね」
悠耶の母親の言葉に、力は現実に帰った。
「いえ、迷惑なんて。こちらこそ、よろしくお願いします」
力はぺこりと頭を下げた。
迷惑というのが具体的には夜のことなのだと、力は当然わかっているが、取り立てて言及したりはしない。
悠耶は恥ずかしそうに俯いている。
真実、力は迷惑だなんて少しも思ってはいなかった。
「気を付けてね、いってらっしゃい」
悠耶の母親に見送られ、二人は駅へと歩き出した。


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「力、朝飯食べた?」
駅のホームに着くなり、悠耶が力に問いかける。
次の電車が来るまでには、まだ八分ほどある。
「いや」
力は簡潔に答えた。
「やっぱり。これ、食べる?」
悠耶がショルダーバッグから何かを取り出して、力に渡す。
袋に包まれたそれは、おにぎりだった。
「え、いいのか?」
力が包みをはがすと、海苔の匂いが鼻先をくすぐる。
思い出したように胃が活動を始めて、力は強烈な空腹を感じた。
「うん」
「サンキュ」
力はおにぎりにかぶり付いた。
まだ温かい。
「美味い」
平凡な感想にも、悠耶は嬉しそうに笑った。
力は、ぺろりと平らげてしまった。
「もしかして、悠耶が作ってくれたのか?」
電車の中で力は、ふと気付いて聞いてみた。
悠耶の母親は料理研究家で、悠耶も料理を手伝うことが多いという。
力は、悠耶がエプロンを着けて、ほかほかのご飯を握るところを想像した。
それを料理と言えるのかは疑わしいが、何だか微笑ましかった。
「うん」
悠耶が少し照れて頷く。
力の宿泊行事は、片思いの相手が握ってくれたおにぎりで始まったわけである。
楽しい旅行になりそうだ。
顔が思い切りにやけそうになる。
しかし、悠耶の言葉の続きを聞いて、少し複雑になる。
「また、迷惑かけるから」
消え入るような声だった。
この件に関して、力はこれっぽっちも迷惑だと思っていないということは、何度も悠耶に伝えてある。
だが、こればっかりは本人次第だ。
力がどれだけ理解して、協力しても、一番辛いのは悠耶自身だ。
力以外に知られる心配はないとわかっていても、外泊は気が重いのだろう。
「ま、時間に遅れた上、おにぎりまでもらっちゃって、迷惑かけてるのは俺のほうだけれどな」
何気ない口調で、力は言った。
「そんなの、ぜんぜん迷惑じゃないよ」
「じゃ、お互いさまだ、な?」
力が同意を求めると、悠耶は小さく頷いて、ありがと、と呟いた。


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