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ゆずきのBL小説ブログです。                      頼りになる幼馴染攻め×おねしょが治らない受けです。        ちまちま更新します。
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保田衛(やすだ まもる)は医者である。
S駅から道を一本隔てて、やすだ医院という小児科の病院を持っている。
下がった目じりが特徴の、今年で四十になる温和そうな男だ。
真瀬悠耶(ませ ゆうや)が保田のもとを訪れたのは四月上旬、散り急ぐ桜が若葉へと変わりゆくころであった。
時刻は午後六時半、医院の診察時間の後である。
「悠耶くん、そこでいいかな?」
保田は、診察室の患者用の椅子を悠耶に勧めた。
「はい、すみません、診察終わっているのに」
「いや、いいよ。今日は診察ではないんだから」
とは言え白衣の保田が悠耶に向き合って座れば、関係は医者と患者にしか見えない。
事実、保田にとって悠耶は患者であった。
保田は、熱を出した幼いころの悠耶を何度も診療している。
悠耶は成長と共に風邪を引かなくなり、また、年に一、二度体調を崩しても、小児科専門のやすだ医院に掛かることはなくなった。
だが実は、保田は風邪以外のことでも悠耶を診ている。
悠耶の風邪は、適切な薬の処方と家で安静にしていることで難なく治った。
もうひとつのほうは、そううまくはいかなかった。
悠耶は保田にとって、いまでも患者なのだ。





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保田が悠耶のおねしょ癖を知ったのは、悠耶が中学に上がった春だった。
それから丸四年、悠耶のおねしょは、いまだ続いている。
漢方や点鼻薬など一般的な治療では、量が少し減ってくれるくらいの効果しかなく、副作用の問題もあり、いまは治療を中断している。
おねしょ……夜尿症という病気は、直接的に健康や命に関わるものではない。
だが、治るか治らないかで、悠耶の人生は全く違うものになるのではないか。
保田は医者として、悠耶を治せていないことを、すまなく思っている。
しかし謝罪してしまえば、治せないと言うのと同じ気がして、悠耶に対しても明るく、おねしょのことなど気にしていない素振りで接していた。
「もう学校は始まったよね?二年生になったのかな」
「はい」
悠耶が小さく頷く。
高校二年生ともなれば、瞳は卒業後の進路を見据えて爛々と輝いてくるものであるが、悠耶の眼は、ふわふわと空中を見つめて彷徨っていた。
卒業後の進路より、現在までずっと抱えてきた問題のほうが、悠耶には余程、悩みなのだ。
そして悠耶が保田を訪ねるからには、この悩みのことで相談があるのだろう。
保田は、少しずつ探りを入れることにした。
「力くんとは、同じクラスになれた?」
悠耶の幼馴染である神野崎力も、幼いころに熱を出すと、やすだ医院に掛かっていた。
真摯で冷静であり、悠耶のおねしょを知る力を、悠耶のサポート役として保田も頼りにしていた。
「いや、違うクラスなんですけど」
そこで悠耶は言い淀んだ。
「そっか、残念だったね」
保田が優しく微笑みかける。
「あ、でも、大丈夫です」
保田が続きを促すように視線を向けると、悠耶はなぜか頬を紅くした。
「修学旅行の班は、クラスを超えてもいいんで。同じ班になれば、部屋も一緒になれるし」
悠耶が力なく笑う。
「うん、それなら安心だね」
何が安心なのかと言えば、もちろん夜のことである。
悠耶の言葉は、力と同じ部屋にならねばならない、つまり、まだおねしょが治っていないことの暴露である。
「……はい」
悠耶はますます顔を紅潮させた。
それから保田を上目遣いにちら、と見て、目を伏せた。
言葉を探すように、しばし逡巡し、躊躇いがちに顔を上げる。
「先生、おれ、治るのかな……昨日でもう十七歳になっちゃったのに」
悠耶の声はか細く消えていって、保田はこの未成年の患者に、自分が医者としても大人としても無力であることが、情けなかった。



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悠耶は焦っているのだろう。
それと言うのも悠耶が中学生のころ、保田は悠耶にこう言ったことがあるのだ。
「つまり悠耶くんは、まだ身体が大人になりきっていないんだ。おねしょが治らないのも、それが原因かもしれない」
あのときから悠耶は十センチ以上も背が伸びて、体格も十七歳に相応している。
それなのに、身体は大人になったのに、おねしょは一向によくならない。
それで、焦っているのだろう。
「昨日が誕生日だったのか、おめでとう」
悠耶は嬉しくなんてなさそうに、下唇を噛んで黙ってしまった。
「悠耶くん、随分と背が伸びたね。大人らしい体つきになった。でも、それはあくまで見た目の話だ」
中身は子供だ、と言われているとでも思ったのか、悠耶はますます俯いてしまった。
保田は気遣う声で聞いた。
「あっちのほうは、どうかな?」
じっと動かない悠耶に、保田は問いを重ねた。
「まだ、なんだね?」
「は、はい」
悠耶は申し訳なさそうに、僅かに答えた。
おねしょ以外にも、悠耶には悩みの種があるのだ。
「そっか……力くんとは、変わらずに仲良くしているのかい?」
保田は、力が悠耶に本気で惚れていることを知っているので、いわば鎌をかけるつもりで聞いたのだが、悠耶は急に変わった話題にきょとんとしただけだった。
親友の関係から、進展はないようだ。
「はい、いつも通り、一緒に学校行ったり、お互いの家に行ったり来たりしてます」
うん、と保田はひとつ頷いた。
「気の置けない友達は重要だ。心の、それに身体の成長にもね」
「はぁ……」
悠耶は、わかったようなわからないような相槌を打った。
それもそのはず、当の保田にも、力という存在が悠耶の成長にどれほど影響を与えるか、正確には予測できていない。
ただ、保田には悠耶の身体にたいして憶測がある。
それが正しければ、力が悠耶のおねしょを治せるかもしれないのだが、無理強いは禁物、じっくり見守るしかない方法なのだ。
「先生、あのことは、力には言わないよね?」
去り際に、悠耶が念を押す。
もうひとつの悩みについては、悠耶は力にさえ知られたくないのだ。
「絶対に言わないよ」
約束の言葉を聞くと、悠耶はぺこりと会釈をして帰って行った。
悠耶が不安な心情を吐露する相手役を務めるくらいしかできないことが、保田はもどかしかった。



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残暑というよりも夏が続いているような暑さの、それでも着々と日は短くなりつつある九月の初めの午後六時半、やすだ医院にひとりの来客があった。
「おや、珍しいね」
保田は親しげに声を掛けた。
「衛先生、お久しぶりです。少し、いいでしょうか」
「じゃ、こっちで話そうか」
保田はその男、神野崎力(かんのさきりき)を、五ヶ月前に悠耶にしたのと同じように、診察室の患者用の椅子に座らせた。
「ありがとうございます」
力は礼儀正しく、大人のような、どこか悟ったところのある落ち着きを見せた。
悠耶と一緒に来院したときの力は、こうも大人びてはいなかった。
と言ってもそれは、一年以上も前、力が中学を卒業した日のことであったが、その日の力は、悠耶がおねしょを抱えたまま高校に進学することを漠然と不安がる隣で、同様に新たな環境への期待と不安に緊張をはらんだ表情を見せていたはずだった。
それが今日の力は、すでに大人しかいない病院の雰囲気に溶け込んで、保田は二十も年下の相手と向き合っている気がしなかった。
力は保田の視線を捕らえ、ふと苦く笑った。
「おれ、悠耶に嫌われたかもしれません」
「え……?」
「今月末、修学旅行なんです。二泊三日、沖縄に。それで、今年はおれと悠耶は別のクラスなんですけれど、班って言うか部屋割りは、クラス関係なく決めていいんです。それなのに、悠耶、おれと一緒の班にはなれないって」
まいったな、と言うように、力は頭を掻いた。
さほどの深刻さを感じられないその様子が、保田には少し不自然に思われた。


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「悠耶くんと、何かあったのかい?」
「あ、いえ、何も。ただ……」
力の話に拠れば、悠耶は二年生に上がってから、会話が続かなくなったり、笑顔に無理が見えたりと、どことなくよそよそしかったのだそうだ。
修学旅行の班は、悠耶は同じクラスの意多綾人(いだ あやと)という男と、力は彼のクラスの風見爽介(かざみ そうすけ)と組んでいるとのことである。
「それで、これは本当は悠耶に直接聞くべきなんですが」
力が控えめに切り出す。
「悠耶、治ったんですか?」
確かにおねしょが治ったのであれば、悠耶は力以外の人物と同じ部屋で寝ても心配がない。
治ったから他の人と同じ班になったというなら、悠耶はおねしょを隠したいがためだけに、力をこれまで選んできたことになる。
そうであっても力は、悠耶のおねしょが治ったことを心の底から喜べるのだろうか、と保田は思った。
「いや僕も、治ったとは聞いていないよ」
「そう、ですか」
力はゆっくりと頷いた。
そう、悠耶は治っていないはずだ。
治ったのなら、保田にも力にも報告するだろう。
それならば、修学旅行では力と同室でなければ困るのは悠耶だろうに、なぜ力と同じ班にならなかったのだろうか。
保田にも思い当たるところはあるが、まずは力の考えを聞こうと、保田は力に目を向けた。
力は保田の意を的確に汲む。
「おれは、いい傾向だと思うんです。いままでの宿泊行事は全部、悠耶はおれと一緒だったけれど、もう高校生だし、別々に行動するっていうのも。悠耶がおれ以外のやつで、同室でも大丈夫だと思えるやつがいるんなら、きっとそいつも、悠耶の大切な友達になると思うんです」
「つまり悠耶くんは、おねしょを知られてもいいと思える友達と出会って、それで今回は力くんではなくその友達を選んだ、と」
「はい」
力は明るく力強く、自分が選ばれなかったことなど露ほども問題でないというように頷いた。
そんなわけはない。
力の、悠耶を見つめる瞳の想いの強さを、保田は知っている。
「力くんは、それでいいのかい?」
保田自身、何が最善かわからない。
「本当は、悠耶くんと一緒がいいんだろう?」
「それは……そうですが」
力はあごに指を当てて考える仕草をした。
保田は小さく息を吐いて、自分の考えを述べ始めた。
「実は、四月に悠耶くんが来たんだ。治るのかなって心配していて……悠耶くんは、焦っているんだと思う。特に、力くんみたいな大人びた子の隣にいるのでは、ね」
力は目だけを動かして、何かを読み取るように、測るように、保田を見つめた。
保田は苦笑する。
「ごめんごめん、深い意味はないんだよ。ただ僕は、力くんには悠耶くんのそばにいて欲しいって、思うんだ」
力はいぶかしげに二度三度と瞬きをした。
「衛先生」
力の言葉の続きを遮るように、保田は立ち上がって力に背を向けた。
「いま、僕が言えるのは、これだけだよ」
悠耶は、焦っている……。
力は黙して、保田の言葉を反芻した。



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